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報告:多文化間メンタルヘルス研究会「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックとメンタルヘルス」(2021年3月14日オンライン開催)

JAFSA多文化間メンタルヘルス研究会 実施報告
テーマ「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックとメンタルヘルス」



実施概要


日 時2021年3月14日(日)14:00-16:30
開催形式オンライン開催
講 師勝田吉彰(関西福祉大学教授)
酒井崇(名古屋大学特任講師)
参加者25名

実施報告


 現在渦中にある本テーマについて、大学等で留学交流に関わる私たちが、学びを深めるべくオンラインで研究会を行い、全国(北海道から沖縄)から多様な参加者があった。研究会は3部構成で行った。

 最初に、渡航医学・精神医学の専門家である勝田吉彰氏から、「新型コロナの心理社会的影響」の題で、ご講演いただいた。2003年のSARS感染症時に見られた人々の心理的特徴を参照しながら、コロナ禍でも不安に抗するための心理的パターンのひとつ、「他者を否定する」ことが差別に繋がっていること、不安は流言によって増長されることが分かりやすく説明された。流言(噂・デマ)の量は、ことの重要性×曖昧さ(Rumor=Importance x Ambiguity)とするオルポートとポストマンの法則に則れば、曖昧さをいかに減らすかが大切であり、わかっていることから根拠を示して「ちぎっては投げ」式のこまめな情報提供が求められるというポイントが提示された。(日本渡航医学会・日本産業衛生学会の共同制作による「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン」が根拠となり、両学会のホームページからダウンロードが可能である。)クライシスコミュニケーションでは、即時性とともに「統一したメッセージをひとつの機関から、決まった人が出す」ことが効果的であり、単純で短いメッセージを、繰り返し伝えることが重要であることも強調された。いずれも大学からの情報発信に大いに役立つ点である。
 今回のパンデミックでは、「ヤマがわかっている試験で、部分点を積み上げながら継続的に合格点をとっていく」ことが大切。100点をとれと言われたらなかなかできないが、アンテナを常にたてて、ヤマを抑えながら合格点をとっていこう、という力強いメッセージがあった。

 第2部では、名古屋大学で留学生のメンタルヘルス相談を担当する精神科医の酒井崇氏から、「COVID-19の状況下における留学生のメンタルヘルス」の題で、名古屋大学で行ったアンケート調査結果の紹介と、留学生の精神的傾向についての知見が提示された。留学生は、H.テレンバッハによる「インクルデンツ」(封入性)と「レマネンツ」(負目性)のように、秩序を作って自分を閉じ込め、または親や周囲からの期待を受けて高い要求水準を目指す学生が多いため、コロナ禍で秩序が維持できなかったり、要求水準に遅れをとったりすると、精神的不調をきたす場合がある。「すべき」から「したい」へ、「前進し続けること」から「立ち止まること」への変化を促すのも必要ではないかという、示唆に富むアドバイスがあった。

 第3部は、研究会会員で心理カウンセラーである名古屋大学の和田尚子氏から、コロナ禍で留学生に起こりうる架空の困難事例を提供いただき、教職員としての対応の工夫や関係者の連携について、3つのグループに分かれて話し合いをした。国際移動がほぼ不可能な時期の、各大学での取り組みや苦慮していることなどについても意見交換することができた。

 全体を通して、「このタイミングで、具体的にどうすればよいのかについて情報を得られた」、「留学生の心理的状況について示唆をいただいた」、「事例を通して大学ができることを確認できた」、などの感想があった。また、本研究会で「刺激を受けたので私どもでも、さらに日々の業務をがんばっていこうと励みになった」、という声もあった。時間の関係で、会の中で取り上げられなかった質問は本研究会代表の大橋敏子氏から講師の方々に送っていただくことになった。
 初めてのオンライン開催で、事前準備や当日の機器操作・進行等、すべてに大きな苦労があったと思われる中で、講師の先生方、ブレイクアウトルームでの進行役などを担っていただいた先生方、そして参加者皆様のご協力により学び多い研究会となったことに、感謝を申し上げたい。

田中 京子 (名古屋大学)


第1部(勝田氏)

第2部(酒井氏)


第3部(和田氏)



★多文化間メンタルヘルス研究会については、こちら をご覧ください。
※本研究会に関心のある方は大橋敏子氏まで直接ご連絡ください。